あひるの空が面白い

あひるの空(14) (講談社コミックス)

あひるの空(14) (講談社コミックス)

や、前々から面白いと思ってたんだけど書く機会が無かったんだ(あひるの空的台詞回し)。実は最近までスラムダンク全巻ちゃんと読んだ事無くて最近に漫画喫茶で全巻一気読みしたりしてる程度のバスケ漫画の知識なのですが…。しかしあらためてスラムダンク全巻読んだところでこの漫画、あの伝説の領域に辿り着けるほどのポテンシャルを有していると再認識。あ、スラムダンクが凡作って言ってるワケじゃないですよ念のため。


基本バスケ漫画で作者本人は「本格バスケ漫画を目指しているワケでなく基本ギャグ漫画」と初期の頃言ってたりしてたのですが、最近はすっかり「本格バスケ漫画」になっています(悪い意味でなく)。主人公は勿論の事ながらチームメイト、果ては普通の漫画ではスルーされているような準レギュラー陣のキャラクター背景まで丁寧に書き込んでいるのは非常に好感が持てます。普通の漫画ならそこは妥協するだろってとこまで踏み込んでいるのは後述するストーリーと同じく作者の頑固さと漫画に対する真摯な姿勢がうかがえるとこです。バスケに関しても(素人は全然知らない)いくつかの重要なルールを作中で解説してくれていてバスケを全く知らない人でも楽しめます。


そして何よりストーリーが一本道じゃないところが非常に良い。スラムダンクはバスケ初心者でありながら天才である主人公と少しワケ有りなチームメイトがほぼ一本道のレールの上を爽快に駆け抜けていく少年誌の王道ともいえるストーリーでしたがこの漫画はそうじゃない。登場人物のほぼ全員がマイナスからのスタートでそのまま駆け上がっていくのも全然アリで実際それだけで良作にはなるのにこの漫画のストーリーは3歩進んだら2歩下がるといったように成功と挫折を繰り返しながらちょっとずつ進んでいくというある意味でリアリティを追求したストーリー(そりゃ成功だけ繰り返すなんて現実ではあり得ないですよ)を模索。ただそれでもなんだかんだでちょっとずつ前に進んでいくのだろうなぁーとぼんやり構えていたら最近になって(といっても半年ぐらい前ですけど)いきなり今まで歩んできた道から崖に突き落として当初のスタート地点よりさらにマイナスの地点に話の筋を動かしちゃいました。これは凄い。現在14巻刊行されてるのですが、極論するとそのほとんど全巻がこのための前フリだったのです。マイナスがあったからこそプラスがより一層輝くというのは誰でも分かる事ですがそのマイナスの面を描くために巻数にして10巻以上を費やした漫画というのは未だかつてあったのでしょうか。(書いた後気付いたけどベルセルクとかはある意味そうかもしれませんね)


今までだけで細かい描写によってキャラが立って面白かったのに、挫折→成功という大きな流れが完結した時…つまりはクライマックスに達した時は冗談抜きでスラムダンクのクライマックスに匹敵するもしくはそれを上回る感動を得られるかもと感じています。


余談になりますが作者の日向武史の前作でありデビュー作である「Howling」は1話を書いた直後に打ち切りを伝えられたそうで。「Howling」はたまに流し読みしてた程度ですが連載が終了した時僕は「あーこの人はもう漫画を描かないだろうなぁ」と漠然と感じていて実際本人も「漫画家を辞める決心をしていいた」と語っています。「Howling」はなにかそういう得体の知れない悲壮感が漂う漫画でした。その「Howling」を描いた作者が再び日の目を見る事ができて「あー良かったなぁ」と何か暖かい気持ちになってしまいます。


あともう1つ。1〜12巻は主人公と主人公の母親の物語という側面も持っているワケですが、その結末を読んだあとまた最初から読み直したりなんかすると伏線伏線が非常に悲しい。クライマックスなんか何回読んでも泣いてしまいます。本当にこの漫画は凄いなぁっと。構成だけで言ったら少年誌…いや青年誌を含めても現在の漫画家でNO1じゃなかろうか。